2650年01月01日

Chapter:00




Yuki Mitsuhashi Presents.


The RLight=Bringer -Let bring us the Rights=Lights










『二つのものが無限であるのだろう。それは宇宙と、人間の愚かさ。しかし宇宙に関して言えば、僕はまだ絶対の確信をもっているわけではないのだが』
 アルベルト・アインシュタイン Albert Einstein
 (1879-1955)


『昨日の夢は、今日の希望であり、明日の現実』
 ヴェルナー・マグナス・マクシミリアン・フライヘア・フォン・ブラウン Wernher Magnus Maximilian Freiherr von Braun
 (1912-1977)


『目標に向かい、一段ずつ階段を上っていく上で、一番肝心な事は、必ず、最初の一段を上るということである。そしてまた次に一段上るということ』
 糸川英夫 Itokawa Hideo
 (1912-1999)


『明日は何が可能になるのだろう? 月への移住、火星旅行、小惑星上の科学ステーション、異文明との接触……。今は夢でしかないことも、未来の人々には当たり前になるだろう。でも、こうした惑星探索に我々が参加できないことを落胆することはない。我々の時代にも、宇宙への第一歩を記すことができた、という大きな幸運があったのだから』
 ユーリ・アレクセーエヴィチ・ガガーリン Yuri Alekseyevich Gagarin
 (1934-1968)









Chapter:00
   『Wyvern Heart』


【AD:2650-02-16  21:47】
【EM37245地球−火星間宙域】

【航宙母艦アマテラス第四居住区画】


 艦載機、いや、パイロットの数が足りない。一機でも多く出しておきたい。飛んで貰えると助かるんだけれど――おおよそ、軍隊らしくない『お願い』のコールが就寝中だった自分に掛かってきた。何に最初に驚いたかと言えば、自分が眠っていたという一点だったが。『あんな事』の後でも、人間って眠れるのか。凄いな、人体。
「自分の所属していた飛行小隊はもう存在していません……今度はどこの部隊で飛べば?」
 婉曲的に「Roger(了解)」の旨を戻しつつ、カプセルのシャッターを開いた。パイロット居住区画、その一隅に据えられたささやかな個人空間――文字通りの起きて半畳寝て一畳だ――から一転、怒号入り交じるさながら罵り合いのような肉声が滝となってその全身に浴びせ付けられる。ああ本当に火事場なんだな、一人呟いて、カプセル下部のトレーから専用の気密服、パイロット・スーツを引き出した。
『新規の部隊編成をしている余裕がない。各部隊のバックアップ、フォローを自由な判断で行って欲しいんだが』
 最後に思い出したように『すまないな、少尉』とCIC(戦闘指揮所=Combat Information Center)属のオペレーターが謝罪を付け加えてきた。名前と声は知っているが、顔までは知らない。或いは幾度と無く、艦内で擦れ違っているのかもしれないが。
「……自由に飛べ、ってのも凄い命令ですねぇ」
 厳密に言うと『飛ぶ』という表現より『撃ち殺す』と言う表現の方がより適切かとは思う。ああ、勿論『撃ち殺される』可能性も理屈上は半分、ある訳なのだが。理屈の上では。
『それ位の現場(げんじょう)ってことだ。君の機体、104-0058は、第三格納庫にて給弾作業に入らせ――入ったところ、のようだ。コックピット座乗の上、指示を待て』
「了解です。アレン少尉は58号機コックピットにて起動待機、指示を待ちます」
 最新技術の結晶でもあるパイロット・スーツの着用は実に容易。この段階で、既にヘルメットを除く部位の装着は完了している。

 最後に腰元のホルスター、その中身の重みと感触、『それ』が存在する意味を軽く再確認してから、アレン少尉は騒然としている直通通路に向け、メットを片手に駆け出した。





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 あぶなっ――どうにか通路、曲がり角での衝突を回避。相手も同じ、パイロットのようだ。互いに『緊急回避は右面』をその体に叩き込まれていればこそ、だったかもしれない。
「気ぃつけろ――少尉」
「失礼しました、大尉殿っ――」
 対象が女性であったことは元より、その階級が高いことに驚きつつ、簡易敬礼を一つ。
「良いから、急いでいるんだろ――とっとと行った行った」
 しっしっ、と犬が追い払われているような対応だったが、これには助かった。目礼を一つ、再びアレン少尉は駆け出した。

 ――あれが、噂のクリストファ・アレンか。

 ここ一日の艦内での噂話、専(もっぱ)らの主人公。

「フローラ、私達も急がないと」
「あ、うんすまない」
 ようやく追いついてきた僚機パイロット――こちらもやはり女性だった――に頷き返しておきながら、フローラ・ザクソン大尉もまた、駆け足を再開した。

 ――美形なのはともかくとして、あの面(つら)はなんだ

 ――あの『無表情』はヤバイだろ

 そんなアレン少尉の『遠過ぎる目』は、複合材で作られた通路を踏み締め走る中にあっても、彼女の脳裏視覚へと、こびり付き続けた。




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『よう、相棒。調子はどうだ?』
 とでも語り掛けてくれているのか。或いは、この『凶悪』な乗り手なんかその背中に乗せるのはもう金輪際マッピラゴメン、と萎縮してくれているのだろうか。

 勿論、そのどちらでもない。

 羽を休めていた『それ』に、そんな『知性』も、また『温もり』も存在しない。もっとも、こと知性に関しては積載されている高度なコンピュータの数々は解釈によってはその概念に含まれるかもしれないので、ここは『感情』とでも記すべきだろうか。

 絶対的な無機物、太陽系惑星連合宇宙軍は正式採用航宙戦闘機、AF-10『ワイヴァーン』が、その格納庫で静かに主を待っていた。ノーズ、機首両面には自分のパーソナルマークと、所属する艦を示す数列である『104-0058』が刻まれている。
 連合宇宙軍に四隻しか存在していない航宙空母(CV=Carrier Vessel)『シャイン級』が四番艦、『アマテラス』の艦載58号機、と言う意味は知識の持ち合わせがない人間にはまず読み取れない部分だろう。機体のカラーリングはホワイト、白。目を凝らせば、キャノピ外装に小さく、パイロットの名前が確認できる筈だ。

 航宙戦闘機でありながら、その形状が航空戦闘機に酷似しているのは、数年前に開発、実用化された『荷電粒子反発推進機関』の貢献が大きい。本来、真空の宇宙空間にあって必要性が皆無絶無だった『主翼』はここに再度、日の目を見るに至ることとなった。メインスラスタは従来の航宙戦闘機のそれと大差はないものの、こと姿勢制御、機動抑制に関する燃費効率の良さと安定性の高さは従来機種の追随をこれは一切、許さなかったのである。

 そんな航宙戦闘機――より正確には航宙艦載機だが――AF-10には『飛竜』を意味する『ワイヴァーン(Wyvern)』と言う愛称が付与されたが、これは実機のその形状、威容を目の当たりにすれば、多くの人間の賛同を得られる筈だ。数の限られた、そんな最新鋭戦闘機に乗ることが許された人間は『ドラゴン・ライダー』と呼ばれており、これは彼等パイロットにとって、ささやかな誇り、プライドでもある。

 まあ、自分もそんな『ドラゴン・ライダー』の一人ではある。もっとも、意識的には実在する『猛禽(もうきん)』のそれに近い気がするのだけれど。

 さておいて、しかし、無情で漆黒の宇宙空間。戦闘機体でありながらの『純白』、こればかりは誰の目からしても異常なのは明らかだ。

 自らのパーソナルマーク、ノーズアートに――日本刀をその頭上で交叉させている鳳凰――軽く一礼し、クリストファ・アレン少尉は愛機のコックピットへとその矮躯(わいく)を滑り込ませた。

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 主がコックピット・シートに背中を預けたことを確認した58号機、その内蔵コンピュータが直ちにパイロット・スーツ、その背面のジョイントに接合ボルトを複数、打ち込んだ。続いて複合柔軟素材で構成されたシートが、登録されているパイロットの身体情報に合わせて緩やかな変形を開始する。手綱であり、鞭となる操縦桿が二つ、ゆっくりと固定され、フットペダルが迫り上がる。
「各部位置問題なし、このまま固定」
 ヘルメットを装着しながら、アレン少尉は口頭で告げる。
『了解』
 人工音声が返ってくるのと同時に、コックピット外周に耐慣性溶液、通称Gリキッドが満たされていく。その目を閉じてみれば、水面に浮かんでいる錯覚に耽ることも出来ようが、ここが艦内とは言え、宇宙空間であるという無情で無慈悲な現実を残念ながら、自分は痛みを伴って知っている。

 機体状況のチェック、整備責任者の電子署名の確認、搭載しているコンピュータ群へのテスト信号の入力をほとんど自動的、機械的に続けていると顔馴染みの整備士がコックピットを覗き込んできた。
「少尉、各種ミサイルの積載を開始するよ――58号機の武器兵装庫を開放してくれ」
「……ああ、よろしくお願いします」
 言い淀んでしまったが、既にその右手人差し指はコンソールパネルの上を要請通りに踊っていた。
「開放を確認した。直ぐに始める」
 無言で頷いただけの自分に整備士は、何かを言いたそうな表情を一瞬だけ、作るのだった。

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 ――お願いだから、それ以上――

 ――重くしないでくれ――

 ――余計なもの、もう背負いたくない――



 シートを通じて微震動が伝わってくる。愛機ワイヴァーン58号機、その兵装ユニットへ各種ミサイルが搭載されていく、その作業に依るものだ。ギリ、と歯を食い締める。本当に、本当に、『心の底からミサイルは一発だって積みたくなかった』。ミサイルを一発、積むのなら四門備えられているバルカン、ガトリング砲の残弾を増やしてくれる方が余程に良い。そもそも、『大昔』の様に戦域の電子管制が行き届いていた時代ならばいざ知らず、今のこの時代にあってどれだけ『ミサイル』が役に立つというのだろうか。馬鹿じゃなかろうか、とすら思う。

 だが、今の自分は一介のしょぼいパイロット士官でしかない。そんな、我が侭(まま)が通らないことを呪うつもりもない、だからこその許容だったけれど。

「重いのは、嫌だっ――!!」

 実際に口にした。メットのバイザーは完全に降ろしていたし、その内蔵マイクが何処にも指向されていないことを入念に確認した上での、守りに入った情けない独り言、絶叫だった。

 まだ、『あれから』丸一日だって経っていない。悪夢のような、この瞬間、時間。いつ、自分は解放されるのか。戦闘機械、システム、その一部領域となることを期待される、仕事。

 それでも。

 自分が『飛ぶ』ことで守ることが出来る『もの』だってあるのだろう。少なくとも、陰日向と自分をサポートしてくれている整備士達、同僚には死んで貰いたくない。

 こちらに向け、床面のそんな整備士が両腕で大きく丸マークを作るのを確認し、クリストファは外部から――この場合は母艦――ケーブル供給されている起動電力を愛機である58号機に遠慮無く、ぶち込んだ。

 ヒュヒュヒュ、とお馴染みの人工音が数回、起動信号が点灯。次の瞬間には、コックピット内壁の風景が一変していた。

 シートを含み、ほとんど全てのコックピット構造物に半透明化の処理が施され、そのほぼ全周囲に外部映像が投影された。コックピットの『コンバット・モード』への移行を認識したヘルメットは、即座にパイロットの両の眼球、その網膜に各種情報を強制的に投影してくる。床面で手を振っている気密服を着用している先の整備士に目を向けると、官姓名を含めた情報が表示された。スコット・ロードマン軍曹、と『タグ』の貼られた整備士がヘルメットを着用するまでを念の為に見届け、深呼吸を一つ。

「ファイヤーコントロール(火器管制)、チェック」
 口頭で命じつつ、しっかりとタッチパネルでの指示も並行して行っている辺りがいかにも優等生かもしれない。
『了解』
 AAM(宙対宙ミサイル)が4基、IM(防宙ミサイル)がこれは6基、それぞれ既にナンバリングも終えられており、ガトリングの弾はこれは1600発が積載されている。そしてこの機体、腹部に備えられているのがこの戦闘機が『ワイヴァーン』と呼称されるもう一つの所以(ゆえん)たる『荷電粒子砲』であり、愛称は『ドラゴン・ブレス』。艦載機が保有するには些か大袈裟すぎるそんな火器の搭載は、奇しくも荷電粒子反発推進機関は副産物、賜物であり、その心臓部でもある常温核融合炉の潤沢なエネルギーがその積載を担保としていた。

 火器、そのシステム群を経由し、機体本体のメイン・コンピュータから応答信号が順調に戻ってくる。どうやら相棒は『早く、飛ばせろ』とこちらを鼻息も荒く、煽ってくれているらしい。
「もうちょっとだけ待ってくれよ――」
 呟き、パネルを操作。『ALL GREEN』、『いつでも飛べる』の符丁を選択した。後は、CICからの指示待ちだ。58号機が母艦である『アマテラス』のマザー・コンピュータと恐らくは人智が追従しきれないレベルでの情報交換を執り行っている中、コックピットのハッチをノックしてきたのはロードマン軍曹だった。
『レモンしかないけれど、持って行けよ』
 キャノピに手を掛けながら、既にメットのバイザーも降ろしていた軍曹がドリンク・パックを差し出してくれていた。
『ありがと! 貰っておくよ!』
 声の軽快さは、意識しないと出せなかった。パックを受け取りがてら、堅い握手を一つ。
『心配してねーけど、ちゃんと帰ってこいよな』
『勿論!』
 キャノピを閉じ、再び小さな電子音に囲まれる世界の住人となる。貰ったばかりのレモンティーを啜り、思い出したように携行食を胃袋に流し込んだ。学習できている、自分。胃袋が軽いと、嘔吐する時に逆に苦しくなることを。

『応答しろ、58号機。こちら『アマテラス』管制――』

 ギン、と。クリストファとワイヴァーン58号機。それぞれの『瞳』に何かが、力強く宿り灯った瞬間だった。

 古今、人は言う。

 撃墜王、エースのそれは何よりも常人とは、『眼光』が違うのだと。

 殺意、我欲発露のそれではなく、もっと澄み切った、遠く深い、不思議な『目』。


 両の唇、上下を丹念に舐め抜いた。

 ――それは、そうでしょう

 ――こんなもの着ていないと生きられない宇宙空間で、ぶっ殺し合いするんですよ

 ――生きる、それだけで大変な空間なんですよ、宇宙。知ってましたか????



 ――それは、おかしくなるんでしょう

 ――それは、おかしくなるんでしょう

 ――それは、おかしくなるんでしょう?





















The RLight=Bringer




Let


bring


us


the


Rights





Lights













 [01st RLight]
Chapter:00『ヒトの営み』


 『無限』としか表現することの出来ない拡がりとして遠慮、容赦無く存在する『大宇宙』。宇宙に進出する以前の人類にとって、『そこ』はそんな存在だった。しかし、自らを自然発生させた地球を飛び出し、他惑星、小惑星帯への進出を果たすに至っている今現在でもしかし、陳腐な表現とは成り得ない。

 それ程に、『宇宙』と言う空間は人に、人類にとっては広大に過ぎた。

 人類はその西暦における2200年、その末には太陽系のほぼ全域をその観測範囲とする事に成功したと言える。行動生活範囲、健全なる経済活動範囲となると厳しい部分は否めなかったのだが、それでも版図、領域を広げることに関しては一定の成果、その確保に成功したと誇って良いのだろう。

 当然自然、次なるステップは太陽系外、外宇宙への進出だったのだが、これは想像、願望、展望以上の困難を極めることとなった。

 光の速度を越える推進機関の開発は物理的に不可能であったし、仮にそんな『光の速度』に並んだところで、この遠大な宇宙においては『光速』と言う『高速』など、笑い話にも及べない『低速度』でしかない。太陽系から最も距離の近い天体であっても、到達を果たすには十年近くもの月日を要さなければならないのである。

 時の科学者、技術者達はこの無慈悲に立ちはだかる苛酷な現実に、大いに絶望した。白旗を揚げざるを得なかった。

 だがそれでも彼等は好意的で、或いは慈悲深い絶対的創物主の存在に想いを馳せざるを得ない発見をすることになる。

 それは、彼等の活動範囲は限界到達部においてのことで、時に西暦2335年!

 木星軌道の下方地点。つまりは『遠く、遠く』冥王星のその涯てまでを、と突き止めようとしていた天文学者達からすると実に、その懐と言っても良い。太陽系、その円環の下方だ。そんな宙域にあって、不可思議な天文、自然現象は観測確認されたのだった。
『あれは未来への扉に成り得るかもしれない』
 と言う発見者の第一声は、遠い昔に初めての有人宇宙飛行を完遂した飛行士の『地球は青かった』に匹敵する明言として、人々の胸に刻まれていくこととなる。なんと、

 空 間 が 歪 ん で い た 。

 便宜上、その現象は『X611』と名付けられた。それまで特筆に値する程の目新しい発見も無く、研究のテーマに飢え切っていた当時の宇宙物理学界において、『これは幾世紀以前よりその存在だけは仮定されていたワーム・ホールに類するものなのではないか』、等と学者達は激情と興奮の色を隠そうともせず、それこそ殴り合い、掴み合うような論争に励んだ。

 だが、調査が進展を迎えるにつれ、『X611』はそんな『ワーム・ホール』とは全く異なった現象であることが判明していく。

『611周辺の空間は歪んでいるのではなく、秩序立った圧縮効果が施されている可能性はないか?』

 との表現を最初に用いたのが誰であったのか、正確な記録は残っていない。しかし、上がってくる観測結果の数々より、これ以上に適切な表現を当時の科学者達が見付けられなかったのもまた一面の事実ではあった。

 そして、更に。

『発見されたX611をその『圧縮された空間』の起点と仮定すれば、その『対称点』が遠方の宇宙空間座標に通じている可能性は極めて高い』

 当時、宇宙物理学の第一人者であったアキオ・ニタライ博士のこの発表は学会のみならず、人類社会全体に大きな衝撃を与えることとなっていく。

 既に火星のテラ・フォーミング(地球環境化)も一段落がつき、イオやエウロパに始まる木星圏での居住環境も整えられつつあった中、政府が人口の増加に頭を悩ませる時代は過去のものとなってはいたのだが、X611のメカニズム解明は来るべき未来における人類の『外宇宙進出』の切り札となる、と判断した太陽系惑星連合議会は宇宙開発関連の予算枠500%増を、なんと即日の全会一致で決定した。

 そして西暦2340年。発見から五年目の節目となるその年には、『X611及びその周辺宙域』と言う煩わしい仮称に取って変わり、新たなる名称が付与される運びとなった。尋常では無い数の一般公募の中から『ネビュラ・リーヌ(Nebula-Line=星雲航路)』と言う名称が選択され、これを利用した外宇宙探査の計画がいよいよ、現実味を伴った状況下で検討されるようになっていくこととなる。

 そんな命名から更に十年後。実験投入された無人探査衛星『はやぶさ25』により、『ネビュラ・リーヌ』の対称点が太陽系から約276光年離れた空間に直結していることが、ほぼ断定される。そんな『はやぶさ』に続き、より高性能特化を施された観測機器を搭載した衛星の数多が順次リーヌへと投入され、資材機械類、人体へと掛かる影響の無い事が入念に確認されると、勇気とそれを凌駕する程の野望をその内に抱いた有志の宇宙天文科学者数十名を乗せた史上初の有人探査船、『りゅうおう』が生々しい人体実験、もとい――精密調査の為、リーヌへと突入を果たすことになった。

 そんな『りゅうおう』が帰還を果たしたのは、実に八年後の西暦2358年。彼等は数多くの貴重な情報と共に――航海途上、一人の乗組員を事故で失いこそしたものの――無事に木星圏へと舞い戻ってきた。そして、そんな彼等が持ち帰った膨大な情報の中でも特に地球圏の人々を歓喜させたのは、リーヌ対称点より近縁に星系が存在し、その第四惑星は手を加えずとも人類が居住可能な『G型惑星』、つまり地球型の惑星ではないか、と言うレポートの存在であった。

「僥倖(ぎょうこう)である!」

 当時の連合政府主席レナンジェス・フォリナーの、この簡潔に過ぎた第一声、発言は後々にまで伝えられる明言となり、太陽系惑星連合政府は、専門の調査衛星などを積載したより大規模な探査船団の、更なる派遣を一両日中に決定することになる。
 だが、そんな決定と並行し、ありとあらゆるメディア――それこそ太陽系全体規模の――を駆使して行われていた『りゅうおう』の持ち帰ったデータ、その入念な再検証によって、『アポロン』と命名されたその恒星の第四惑星が正に『地球型惑星』であることが程なく、確定を果たすことになってしまう。
 この結果を受け、連合政府は第二陣となる予定であった探査船団の派遣に関して、『若干の』修正を施すこととした。もっとも、その内容は『修正案』に留まるものでは無かったのだが。

 連合政府は、なんと『試験移住希望者』の一般募集を開始した。『プロジェクト・アヴァント(Project=AVANT)』と名付けられた、間違いなく人類史上最大のプロジェクトである。

 多くの人間が当初はその耳を疑い、さすがに笑い話の種にしかならない――と感じていた。

 ところが、しかし。入植を希望する人々の数は、事前予想を遙かに上回る膨大な数字となり、連合政府の職員達に悲鳴を上げさせる結果となってしまう。

 そんな膨大な数の希望者の中から、一般的には――専門職に関してはこの限りではない――心身の健康状態、疾病履歴、四十歳以下と言う年齢制限、そして犯罪歴の有無、信仰している宗教の有無――等と言った無数の条項をクリアした人々、その数推定五千名を積んだ、空前絶後の超大型移民船『アドヴァンス』が30名前後と推定される乗組員の操船によって火星沖を進発したのが、恐らく西暦2380年9月18日の正午であった、と史実には記されている――他人事に響くのが何故かと問われれば、この移民船の進発直後に発生したとされる太陽フレアの異常活性化による基幹データの消失により、詳細の詳細、本当に細部のデータが喪われてしまっている現実があり、移民船団のデータが、結果的に後付で補完される部分が多いこと、これは今でも誹謗非難の対象となっている。オリジナルのデータ損失は、これは比類無き大失態であったことは言うまでもない。

 ともあれ、そんな記念すべき第一陣の移民船団がアポロン星系第四惑星の地表に降下を果たしたのが、西暦2395年。古巣とも言うべき太陽系を後にしてから実に十五年の月日が経過していた。長い人工冬眠から解放された人々は新天地の土を踏み締めながら、大気の組成が地球本星とほとんど変わらず、重力も0.9G、自転周期が25時間と言う申し分の無い好条件にそれこそ奇蹟的なものを覚え、善意ある『神』に対し、心から篤(あつ)く感謝したものだった。

 敢えて問題点を挙げるとしたのならば、海洋面積の比率に対して陸地面積の比率が地球以上に低く、更に生態系としては原始的な植物類しか存在が無かった、と言う点が挙げられたかもしれない。だが、それでも惑星自体に大掛かりな手を加える、そんな労無くしての安定居住が可能、と言う奇蹟に近い現実に陰を落とし込む要素とは全く成り得なかったことは述べるまでもない。

 さて、『エテルナ』と言う名称は、記念すべき初代は移民船、その艦長を勤めていたシモーヌ・シュバリエ太陽系惑星連合宇宙軍大佐が仮の名称として特に深い意味もなく、半ばの思い付きで提案を行ったものだったそうだが、語感の良さと旧ヨーロッパ系の言語で『永遠』、と言う意味を有していたこの単語は移民達にも好感をもって迎えられ、公式の名称となるのに時間は掛からなかったと言う背景がある。

 差し当たって『太陽系惑星連合共和国特別自治星エテルナ』がここに誕生することとなった。

 人々はこれ以上を望むものが無い程の好条件下、惑星及びその系内の開発にそれこそ寸暇を惜しみ、全力を尽くした。多産が大いに奨励され、そして『エテルナで一攫千金!』と言うキャッチフレーズが太陽系での大流行語となった現実も手伝った結果、溢れんばかりの希望を抱いた人々を満載した移民船団が第三、第四と次々と到来することになる。

 ――正に、『アメリカン・ドリーム』ならぬ『エターナル・ドリーム』であった。

 入植開始より一世紀が経過して尚、太陽系の各地に設置された移民管理局には希望者が殺到し、限られた移民船のチケットを求めて長蛇の列を作っていたのだから。

 ……そしてなんと驚くべきことか、入植開始より二世紀にも満たない歳月にも関わらず、太陽系とアポロン系の経済格差がほとんど解消されてしまうことになる。ここまで桁外れで、尋常では無いエテルナ側の経済的躍進を演出したのは、エテルナ本星自体が保有していた豊富な地下資源の存在が、そして更にその第二衛星イザヨイの地層深部から太陽系内では入手がほとんど不可能とされる希少金属が、それこそ山の様に発見されたことが事実要素として挙げられる――が、この経済的大躍進は他でも無い、エテルナ市民達の厚い労働意欲の集大成が完遂させたものだった、と表現するべきかも分からない。

 後を絶たない移民希望者達の流入、そして国家ぐるみの多産奨励政策によって人口比率が地球:エテルナ=5:3となったのが西暦2600年のことであり、不況知らずのエテルナ経済が彼等の母体母系であった筈の太陽系の『それ』を凌駕する日が訪れるのは正に、時間の問題と思われ始めたこと、そんなこと。そんな、ことが。


 不幸の始まりというのには、多くの。人が死に過ぎる、そんな未来が。


 一見、人類という生物種がその有り余る闘争本能を過去の遺物としたかに見えていた。『Homo Sapiens(賢明な人)』と尊大に自称した自分達が幾星霜を経てようやく、その学術名に相応しい種として至ることが果たせたか――と。

 絶頂期にあった人々には気付く由も無いことであったのだろうが、それに反して衰退の一歩を辿っていた人々の間に鬱積するものが確実に、着実に溜まっていったのも、やはり歴史の必然であったのだろうか?

 発展目覚ましいエテルナに比べて政治・経済共に低迷、衆愚政治と化した議会は何ら解決策を見出せない。そんな国家、『太陽系惑星連合共和国』が。正に。







 ――果たして、物語の幕はこの状況下で開かれることになる。


 これより語られるのは、『RLight=Bringer(ライト=ブリンガ)』とも呼ばれたクリストファ・アレンと言う存在と、そんな彼を取り巻く人々の生き様、物語。

 刮目(かつもく)せよ、人々よ。

 『光をもたらす者』の物語をその胸に刻まれんことを。

 そして、自らを律する生き方を常に心に留めておくことを。

 我がそれらを願うところ、極めて大。


 闇に墜ちた、その時こそ光を願え。

 欲しろ、光を。

 掴め、光を。








posted by 光橋祐希 at 00:00| Chapter:00 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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